2012年に腰痛診療ガイドラインが改訂された際、新聞各紙に「日本人のおよそ2800万人が腰痛もち」であり、「腰痛85%は原因不明」という記事が掲載され、各界で話題になりました。

実は、腰痛は「結果として」起こるものなので、原因を踏まえた対応が重要となるのです。

そこで今回は、腰痛の本当の原因や、腰痛を改善するのにおすすめの、お灸を置くツボを紹介します。

腰痛の原因

腰痛 原因

病院や整形外科では、主にレントゲンやMRIなど画像診断によって腰痛の原因を探ります。
では、どこに異常が起こると腰痛を発症するのでしょうか。

椎間板の異常

医学に詳しくない人でも、「椎間板ヘルニア」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。医学的には背骨のことを脊椎と呼んでおり、1つ1つの脊椎のことを椎骨(ついこつ)と呼んでいます。

首の骨が「頚椎(けいつい)」で、背中の骨が「胸椎(きょうつい)」、そして腰の骨のが「腰椎(ようつい)」です。

椎間板ヘルニアは頚椎や胸椎にも起こりうるのですが、圧倒的に腰椎に起こることが多いため、通常、椎間板ヘルニアというと、「腰椎椎間板」ヘルニアのことを指すケースがほとんどです。

椎骨と椎骨の間には椎間板と呼ばれるクッションがありますが、椎間板が上下から圧迫されると中から髄核(ずいかく)と呼ばれる組織が飛び出ます。

そして、飛び出した髄核によって神経が圧迫されることで、腰痛が現れると考えられています

椎間関節の異常

ひじや膝の関節と同じように、椎骨同士も靭帯でつながっていますが、例えば足首を捻挫するように、椎間関節が捻挫を起こすことによって、急性腰痛症(いわゆるぎっくり腰)を発症すると考えられています。

仙腸関節の可動域減少

私たちの骨盤は腸骨(ちょうこつ)と坐骨(ざこつ)、そして恥骨(ちこつ)から構成されています。
そして、左右の腸骨と骨盤中央にある仙骨によって、仙腸関節が構成されています。

かつて仙腸関節は医学的に「動く訳がない」と考えらえていました。
なぜなら、骨盤中央にある関節が動いたら、上半身を支えることが困難だと考えられたからです。

ところが近年、仙腸関が可動関節であることが、医学的にも証明されたのです。

仙骨には腰や股関節につながる筋肉や靭帯が多く存在しているため、仙骨の動きが悪くなることで、腰痛のリスクが高くなるのではないかと考えられています。

腰部筋の過緊張

腰痛症の中には、筋筋膜性腰痛(筋膜性疼痛症候群)というものがあります。激しい運動をしたときなどに、筋繊維が断裂したり、筋膜が傷ついたりすることで腰痛を発症するケースです。

筋肉痛と同様に、放っておいても2、3日もすれば治ることがほとんどですが、繰り返し同じ場所に負荷がかかると、症状が長引いたり悪化したりすることもあります。

腰痛の本当の原因とは

腰痛 真実 原因

上記は病院や整形外科で腰痛を見てもらったときに下される診断の一例ですが、実際には85%もの腰痛が原因不明とされます。

一般的な整形外科的見解

整形外科では画像診断に基づいた診断結果を下します。骨が折れていれば骨折という判断になりますし、関節がずれていれば捻挫という判断になるでしょう。

ただ、腰椎は非常にがっしりとした構造になっているので、骨折や捻挫が極めて起こりにくい関節です。

そのため、整形外科でレントゲンを撮っても、ほとんどが「異常なし」とされ、湿布や痛み止めをもらうだけに留まるのです。

AKAの医師による見解

整形外科医の中には、仙腸関節こそが腰痛の原因だと考える人がおり、AKA(エーケーエー)という治療法が考案されました。

AKAによって、手術が必要とされた椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、坐骨神経痛といった腰部疾患の内、そのほとんどに著しい改善効果が期待できるということです。

ただ、AKAは医師資格を持つ者しかおこなうことができず、その数に全国に数十人と少ないのが現状です。

筋膜という新たな見解

2000年代に入ってから、筋膜という言葉をよく目にするようになりました。筋膜という漢字から筋肉を覆う膜のように誤認されますが、実際は、筋肉だけでなく、骨や内臓も覆っています。

たとえばシャツのひじの部分を引っ張ると肩のあたりが突っ張るように、筋膜も連動していると考えられています。

筋膜は内臓も覆っていることから、内臓に関連する筋膜を緩めること(筋膜リリース)によって、内科系の疾患が改善される可能性もあるということです。

腰痛にフォーカスすると、太腿の外側や裏側、臀部、お腹、首の筋膜の緊張によって、腰痛が誘発されるケースがあるのです。

 骨盤はゆがむのか

 骨盤を構成する骨は靭帯によって強固に結合されているので、よほどの外力(交通事故や高い場所からの転落)がない限り、ゆがむことはほとんどないでしょう。

 では、骨盤がどのような状態になると「骨盤がゆがむ」と言われるのかというと、それは骨盤が「傾く」ことを指しているケースがほとんどです。そのため、骨盤はゆがむのではなく、傾くというのが正解です。

 腰痛の際にお灸を置くのがおすすめのツボ

腰痛 ツボ

腰痛は筋肉の過緊張や筋膜の緊張によって起こるケースが多いので、筋肉や筋膜を緩める効果が期待できるお灸がおすすめです。では、どこにお灸を置くと良いのでしょう。

 腰部周辺のツボ

 腰痛が筋肉の過緊張によって起こっている場合、お灸でその筋肉を緩めてあげるのが効果的です。腰痛を発症しているときに緊張が見られる代表的な筋肉が「腰方形筋(ようほうけいきん)」です。

 腰方形筋は12番目の胸椎(一番下の肋骨=あばら骨)と骨盤を結ぶ大きな筋肉で、ここには腎兪(じんゆ)や大腸兪(だいちょうゆ)、三焦兪(さんしょうゆ)といった、腰痛に関連するツボがたくさんあります。

 いずれのツボも背骨から指の幅二本分外側にあるので、両手の親指の先で押してみて、気持ちよく感じる場所にお灸を置くとよいでしょう。

 足のツボ

筋膜の緊張によって腰に負担がかかっている場合、足のツボにお灸を据えるのがおすすめです。特におすすめなのが、ふくらはぎのちょうど真ん中に位置する「承山(しょうざん)」というツボです。

医学的に言うと、腓腹筋が腱に移行する境目に位置しています。
アキレス腱の方からふくらはぎの中央を上へたどった時に、ふくらはぎの筋肉が盛り上がり始める境目が承山のツボです。

 承山のツボには腰痛の改善効果が期待されることはもちろん、ふくらはぎの筋肉を緩めることで血行を促進することが可能です。

その結果、足のむくみを改善したり、疲労を回復させたりする効果も期待できます。

 その他のツボ

 腰痛に効くツボは手にもあります。その代表的なものが「腰腿点(ようたいてん)」です。腰腿点はその名のとおり、腰や太腿の緊張を取るのにおすすめのツボです。

 手の甲をこちらがわに向けたとき、人さし指と中指の骨、および薬指と小指の骨が交差する場所にあります。

腰痛のツボにお灸をするときのポイント

お灸 腰痛 ツボ ポイント

可能な限り2人でおこなう

腰痛のツボはいろいろな場所にありますが、腰に直接お灸を置くような場合、なるべくパートナーや家族と一緒におこないましょう。

筋肉の固くなっている場所を探す

ツボの位置がハッキリと分からない場合、筋肉が固くなっている場所を探しましょう。指の先で押して気持ちよく感じる場所があれば、だいたいそこがツボの位置です。

体毛が濃くなっている場所もポイント

腰痛の人を見ていると、腰の一部にだけ体毛が生えているケースがあります。東洋医学では、冷えた場所を守ろうとして体毛が生えると考えられているためそこもお灸のポイントです。

熱く感じたら取る

腰の筋層は分厚いので、お灸の熱がじんわりと浸透していくものです。

もしお灸が熱く感じる場合、そこはお灸を置く場所として適していないということです。そのような場合にはすぐ取りましょう。

同じ場所に集中して置かない

人間の身体には適度な刺激量(ドーゼ)があります。お灸を同じ場所に集中して置きすぎると刺激量が多くなりすぎ(ドーゼオーバー)、お灸の効果が得られなくなります。

1つのツボの周囲に置くお灸は3つまでにしましょう。

腰痛があるときに気を付けたいこと

腰痛 注意点

腰は文字通り身体の「要(かなめ)」です。痛みがあるときには無理をしないことも重要ですが、早期回復のためには、安静だけでは不足です。

急性期は安静にする

ぎっくり腰など、灸に腰を痛めたときには無理をせず安静にしていましょう。横向きに寝て膝の下にクッションなどを挟むと、腰に負担をかけずに寝られます。

軽度の炎症であれば温める

腰を痛めたものの、ズキンズキンと疼くような痛みがない場合、温めた方が早く治るかもしれません。もしお風呂に浸かって痛みが引くようであれば、どんどん温めた方が良いでしょう。

適度に身体を動かす

日本整形外科学会と日本腰痛学会の策定する「腰痛診療ガイドライン」によると、安静にしていることが必ずしも有効な治療法ではないとされています。

仮に急性の腰痛であっても、痛みの程度に応じてある程度身体を動かした方が、ただベッドで寝ているよりも回復を早めるとされています。

疼痛誘発動作を避ける

腰痛がある人はしばしば、痛みが出る姿勢を確認しようとしますが、そうではなく、どのようにすれば痛みが出ないのかを確認することが重要です。

まとめ

・腰痛のほとんどは筋肉や筋膜の緊張によってもたらされる
・画像診断で原因が分かる腰痛は全体の15%程度
・腰痛のツボにお灸を置くことで症状緩和が期待できる
・腰痛は予防することがなによりも重要

お灸には様々な効果が期待されますが、基本的には慢性的な疾患を改善したり、急性疾患を予防したりする目的でおこなわれるものです。

いったんぎっくり腰になってしまうと、治るまでに時間がかかりますし、日常生活に支障を来たすことにもなりかねません。普段から腰痛のツボにお灸をして、腰痛を予防することが重要です。