鍼灸師は国家資格が必要な職業ですが、鍼灸師になるからには、独立開業を目指す人も多いでしょう。
では、鍼灸師が独立開業するための届出は、どこに出せばいいのでしょうか。
また、独立開業時に知っておいたほうがいい情報も掲載しました。
鍼灸師として独立開業を目指す人はぜひ参考にしてください。

□鍼灸師の仕事

鍼灸師とは、どんな仕事なのでしょうか。
鍼灸とは、東洋医学に基づいた治療法で、普通の病院のような西洋医学とはかなり考え方が異なります。
西洋医学では、体の各部分を別個に見て、どこかに病気があれば、その部分を薬や手術によって治療しようとします。
つまり、体の各部分をパーツのように考えて、治療しているわけです。
しかし、鍼灸は体をパーツごとに分けるのではなく、全身の気の流れを調整するという考え方で治療を行います。
人間の体には経穴と呼ばれるツボがあり、そのツボは経絡という目に見えない気の流れの上にあるものと捉えています。
この気の流れが滞った部分に病気が発生するので、気の流れを正常にすれば治るというのが東洋医学の考え方です。
鍼灸は、はりときゅうによって気の流れを調整して、病気を治す治療法なのです。
これは人間が本来持っている自然治癒力を高める方法なのですが、鍼灸でははりやきゅうをその症状に効果のある経穴に、的確に施さなければならないので高度な技術が必要とされます。
そのため、鍼灸師になるには専門的な学習課程を修了して、国家試験に合格しなければなりません。
鍼灸師として働きたいなら鍼灸院に勤めてもいいのですが、ある程度経験を積んだら独立したいという人もいるでしょう。
では、鍼灸師として独立開業するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。

 

□独立開業の手順

鍼灸師として独立開業する流れは以下のようになります。

 

*事前相談

鍼灸師として開業するには、事前に鍼灸院開業予定地を管轄する保健所に、相談に行かなければなりません。
保健所では、開業届に必要な書類の作成、鍼灸院の構造や設備、名前の付け方などについてアドバイスを受けます。
鍼灸院を開くにあたり、構造や設備には細かい取り決めがあり、鍼灸院の名称をつける際にも注意事項があります。
これらの点について基準を満たしているか確認するためにも、事前相談は重要となります。

 

*構造設備基準の規定

鍼灸院で患者に施術するには、基準に則った施設や設備が必要になります。
具体的に以下の基準を満たしていることが開業の条件となります。

・施術室の広さは6.6平方メートル以上
・3.3平方メートル以上の待合室を併設
・施術室は、部屋の面積の7分の1以上が外気に開放できるか、換気装置がある
・施術用器具や手の消毒設備がある
・衛生上必要な措置を施し、部屋を明るくして換気が可能
・施術者1人につき1台の施術台を確保する

 

*鍼灸院の名称

医療法や医師法により、患者が誤解するような名称は禁止されています。
例えば、病院と誤解されそうな名称や、はり科など病院と間違える可能性のある「科」や、鍼灸医など「医」の文字を使うことも禁止されています。

 

*開業届

鍼灸院の準備ができたら、管轄の保健所に開業届を出します。
開業届は、鍼灸院の開業後10日以内に届けるのが義務付けられており、10日を過ぎる場合は遅延理由書の提出が必要です。

 

□開業届に必要な書類

鍼灸院の開業届は、提出用と控え用の2部必要です。
このほか、下記の書類も添付しなければなりません。

・施術者の免許証の原本と写し
・鍼灸院の平面図(施術室と待合室の面積や外気開放部分や換気扇の位置、施術器具や消毒設備の場所などがわかる図面が必要です)
・最寄り駅から鍼灸院までの案内図
・開業者が法人の場合は定款の写しと発行から6か月以内の登記謄本

 

□現地確認

開業届を出すと、一週間から10日くらいの間に、保健所職員が鍼灸院を訪れて実地検査が行われます。
実地検査の確認項目は以下の通りです。

 

*鍼灸院全般

施術室や待合室の面積が基準を満たしているか、換気や採光、衛生保持についてもチェックが行われます。

 

*防火設備

防火設備が備えられているかをチェックします。

 

*廃棄物

一般廃棄物と、使用済みの鍼などの分別が正常に行われているかチェックします。
また、未使用鍼の保管状況もチェックされます。
鍼を繰り返し使用する場合は、オートクレープや乾熱滅菌器などが、完備しているかもチェックされます。

 

*広告

まぎらわしい広告や誇大広告がなく、法律に基づいた広告になっているかチェックされます。

 

*防犯対策

セキュリティシステムの導入や、個人情報が保護されているかどうかのチェックがあります。

 

□広告に関する規定

鍼灸院の看板やホームページを開設するにあたって、名称や広告に関する細かい規定があります。
下記内容は広告が認められていますが、これ以外は広告が禁止されているので注意しましょう。

・施術者の氏名、住所
・業務の種類
・施術所の名称、電話番号、所在場所
・施術日、施術時間

看板には、施術者の経歴や技能、具体的な施術方法を記述できません。
もちろん、規定から外れた誇大広告も禁止です。
ただし、ホームページには施術者の経歴や技能、具体的な施術方法を記述してもかまいません。
このため、鍼灸院の宣伝方法としては、チラシや看板などで鍼灸院の名前を宣伝し、そこにホームページのURLを載せて、具体的な施術内容はホームページに記述するといいでしょう。

 

□出張鍼灸師

鍼灸師として独立開業する方法は、鍼灸院を開設する以外にもあります。
経費のかかる鍼灸院を持たずに、出張専門の鍼灸師として開業できます。
出張専門の鍼灸師として開業するには、自宅住所を管轄する保健所に、出張業務開始届を提出する必要があります。
ただし、すでに鍼灸院を開業していて、新たに出張治療を始める場合、届出は不要です。
出張業務開始届は、あくまでも何もない状態から出張業務を開始する場合のみ必要な届出です。
出張鍼灸師の開業のための必要書類は、業務開始届と届出者の資格免許の原本と写しだけです。
出張専門の場合は個人名で届出するため、鍼灸所の名称や屋号、通称などの広告は認められません。
このため、宣伝活動には十分注意する必要があります。
出張治療の場合は往診先の状況がわからないため、どのような状態でも対応できるだけの準備が必要です。
往診先まで徒歩や電車での移動なら、持ち運べる器具が限られるので、その往診先の施術に絶対必要な器具を中心に、持参する器具を選別する必要があります。
また、往診できる距離は片道16キロメートル以内と定められており、絶対的な理由がない限り、この距離を超えることができない点も注意が必要です。

□まとめ

鍼灸院を開業するための届出は、鍼灸院の住所を管轄する保健所に提出しますが、その前に保健所で事前相談をすることが必要です。
事前相談では、開業届に必要な書類の作成や、鍼灸院の構造や設備、名前の付け方などを相談します。
鍼灸院を開業するには、施術室や待合室の面積が規定されており、このほか構造や設備についても細かく定められています。
また、鍼灸院の名称も医療法や医師法により、規制があるため注意が必要です。
鍼灸院の準備ができたら、管轄の保健所に必要書類を添えて開業届を提出しましょう。
開業届提出後は保健所職員が現地を訪れて実地検査を行い、基準を満たしていれば承認されます。
ちなみに、鍼灸師として独立開業するには、鍼灸院を持たない出張専門でも開業できます。

 

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