maple_bpard 
 
 
こんにちは 😛 
メイプル名古屋です^^
 
いつもブログを拝見してくださり本当にありがとうございます。
今回は、ある鍼灸師の先生が
「もう、10年以上前のことですが、この体験は1度きちんと文章にしておきたかった」
と言うことでブログにさせていただきました。
鍼灸院開業されている先生必見の記事です。
 
とても素晴らしい内容ですので、是非読んでいただきたいです。
宜しくお願い致します。
 
 
 
まだ私が駆け出しの鍼灸師だったころの話です。
往診先の患者さんに「自分の大切な知り合いが困っているので、一度行ってもらえないか。」と頼まれて、60代の男性のお宅に伺いました。
その方をAさんとします。
 
Aさんの家に上がらせてもらって初対面。
いつも緊張する瞬間ですが、Aさんの顔半分に包帯が巻かれています。
あれ?と思いながらの挨拶もそこそこに、Aさんが
「先生は、上顎洞癌をご存知ですか?」
と切り出されました。
「上顎洞はわかりますが、上顎洞癌は見たことがありません。」
と間抜けな答えをする私。
 
「お見せしましょう。」
とAさんは包帯を取り始めました。
包帯の下に現れたのは眼の下、上顎骨の部分にぽっかりとあいた500円玉大の真っ黒な穴。
上顎洞の癌が壊死して、皮膚に穴を開けているのです。
言葉を失って絶句する私に、Aさんが正面から見つめながら畳みかけます。
「鍼灸で癌は治りますか?」
 
「・・・・・。」
言葉が出てきません。
そう、私は鍼灸師の仕事を甘く見ていたのです。
あまりにも甘い。
頭の中がぐるぐる回る状態でようやく絞り出した言葉は、
「鍼灸で癌は治らないと思います。ただ、免疫力を高めるお手伝いはできると思います。」
 
Aさんは表情を変えないまま、軽くうなずき、鍼灸治療を試してみたいとおっしゃりました。
そうして2か月、毎週Aさんのご自宅に通う日々が始まりました。
皮肉なことに、顔の癌以外はいたって元気。
脈もしっかりしているのです。
ところが、医師からは余命宣告を受けていて、その時期が近づきつつある状態でした。
病院では、もうできる治療は無いとも。
 
施術をしながら、今までどんな治療を受けたか、
高額なサプリメントや、有名な温泉地。
癌に効くといわれるあらゆることを試した、とAさんはぽつりぽつりと語られました。
登山が好きで、また山に登りたいとも。
 
そのお話の言外から、Aさんの
「まだ死にたくない」
という気持ちが痛いほど伝わってきました。
 
「なぜ、自分は死ななければならないのか。」
「何とかして助かる方法はないのか。」
「あきらめてなるものか。」
 
全身からその思いが漏れ出てくるようでした。
そんなAさんの思いに対して、駆け出しの鍼灸師に一体何ができるでしょう。
学校の授業では、癌に対して鍼灸は不適応だと習ったな。
そんな思いが頭をよぎります。
治る見込みがない鍼灸治療に何の意味があるのだろう。
これでお金をもらったら詐欺じゃないか。
Aさんと向き合うことで、自分自身もまた鍼灸師としてのあり方を問われたのでした。
 
最終的に私はAさんへの鍼灸治療を続けることを選択しました。
Aさんにとっては、鍼灸治療を受けることは、藁にもすがるような思いだったのでしょう。
そう、一本の藁。
溺れているのに、藁なんかで助けになるわけないじゃないですか。
それでも、藁が必要だというのなら。
自分は喜んでその藁になろう。その時の自分はそう思ったのです。
 
鍼灸治療だけではとうてい追いつかないと思い、コンニャクの温シップや玄米スープなど、生活面でのアドバイスもしていきました。奥様はもともと看護師をされていたので、傷のケアも含め必死にAさんを支えていらっしゃいました。
そんな中で2か月近く経とうとしたときに、奥様から血液検査の数値が良くなった、という嬉しい知らせを頂きました。
「今まで、いろいろ試してきたけど、具体的に数字で変化が出たのは初めてのことなのよ!」
暗闇の中で、一筋の光が差した思いがしました。
ところが・・・・。
 
その数日後、奥様から電話。
状態が悪化し、意識もはっきりしないので入院することになったとの連絡でした。
当然、もう鍼灸治療はできません。
一度だけお見舞いに伺いましたが、ベッドに横たわるAさんにかける言葉もなく、ただ立ち尽くすだけでした。
 
Aさんが亡くなったと連絡があったのはそれから、ひと月ほど後の事でした。
せめてもと思い、雨の降りしきる中お通夜に伺いました。
最後のご挨拶を済ませ、奥様に勧められて少しだけ席に着きました。
私が鍼灸治療で関わらせて頂いたことが話題になると、
「鍼灸で癌が治るわけないじゃないか。」
と、誰ともなく声があがりました。
「そうですよね。」
私は力なく答えるしかありませんでした。
 
それから数週間。
Aさんの奥様から再び電話を頂きました。
往診に来てほしいと。
実は、Aさんの看病の過程で奥様がうつ病に苦しんでいた、ということをその時初めて知りました。
 
 
結局、そこからまた1年間、Aさんのお宅に通う日々が続くことになります。
今度はうつ病との格闘でした。
でもそれはまた別の話。別の機会に書かせていただくことにしたいと思います。
 
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
 
 
 
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