【ACUDEMIC:鍼灸論文から考える臨床のヒント】

日々患者さんと向き合う鍼灸師の先生方、鍼灸学生の皆様、こんにちは!
勉強したいけど、忙しくてなかなかゆっくり時間がとれない…
そんな先生方のお力になれたら…
そして鍼灸の素晴らしい効果をより多くの方に知っていただきたいという想いから、
「ACUDEMIC」(アキュデミック)という企画を立ち上げました!

「ACUDEMIC(アキュデミック)」とは?

「ACUDEMIC」は、Acupuncture(鍼灸)とAcademic(学術)を組み合わせた造語で、
鍼灸の学術論文を要約し、理解しやすい形でお届けすることを目指しています。
鍼灸の最先端研究を発信することで、鍼灸の魅力を発信するお手伝いができれば幸いです。

今回ご紹介するのは、米国の鍼灸研究、「がんサバイバーの倦怠感に対する鍼治療の有効性」についてです。

海外論文要約:がんサバイバーの倦怠感に対する鍼治療(電気鍼・BFA)の有効性

今回ご紹介する論文は、米国スローン・ケタリング記念がんセンターの研究チームが発表した「慢性疼痛を持つがんサバイバーの疲労に対する鍼治療の効果」です。

この研究は、がん治療後も続く深刻な「倦怠感(がん関連疲労)」に悩むサバイバーに対し、電気鍼(EA)戦場鍼(BFA)という異なるアプローチが、それぞれどの程度有効であるかを検証することを目的としています。

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こんにちは、メイプル名古屋です。

日々の臨床の中で、がん治療を終えた患者様から「治療は終わったはずなのに、どうしても体がだるい」「疲れが抜けない」といったご相談を受けることはありませんか?

それは単なる「疲れ」ではなく、がん関連疲労(CRF)かもしれません。

今回は、この深刻な悩みに対して「鍼治療」がどのような可能性を持っているのか、最新のランダム化比較試験の結果をもとに解説します。
先生方の治療の選択肢を広げるヒントになれば幸いです。

今回ご紹介する研究データ

まずは、今回ベースとなっている研究の概要をご紹介します。 米国スローン・ケタリング記念がんセンターのJun J. Mao博士らによる大規模な比較試験(PEACE試験)のデータを用いた二次解析です。

論文名 Effect of acupuncture on fatigue in cancer survivors with chronic pain: a secondary analysis
(慢性疼痛を持つがんサバイバーの疲労に対する鍼治療の効果:二次解析)

著者 Jun J. Mao, MD, MSCE ほか(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)

研究の概要

  • 目的: 慢性疼痛を持つがんサバイバーの「倦怠感」に対し、鍼治療が有効かを検証
  • 対象: 中等度から重度の倦怠感を訴えるがんサバイバー 274名(平均年齢61歳)
  • 比較: 「電気鍼(EA)」、「戦場鍼(BFA)」、「待機リスト(通常ケア)」の3群にランダムに割り付け、10週間の介入を実施

結果:鍼治療は倦怠感を軽減させたか?

慢性疼痛を持つがんサバイバーの疲労に対する鍼治療の効果まとめ

結論から申し上げますと、鍼治療は倦怠感に対して非常に有望な効果があることが示されました。

1. 倦怠感スコアの大幅な低下

介入開始から12週後の時点で、鍼治療を受けた両グループは、対照グループに比べて倦怠感が有意に改善しました。

  • 電気鍼(EA): スコアが平均 2.4ポイント低下
  • 戦場鍼(BFA): スコアが平均 2.0ポイント低下

興味深いことに、電気鍼とBFAの間には効果の差に統計的な違いは見られませんでした。 これは、「患者様の好み」や「施術環境」に合わせて治療法を選べるということを意味しています。

2. 患者様の実感値としての改善

数値上の変化だけでなく、「良くなった」と患者様自身が実感できる「臨床的に意味のある改善」を達成した割合も、鍼治療グループが圧倒的でした。

  • 電気鍼(EA): 61.2% の方が改善を実感
  • 戦場鍼(BFA): 51.6% の方が改善を実感
  • (対照グループは37.3%にとどまりました)

3. 効果は「24週目」まで持続

さらに重要なのが効果の持続性です。治療終了後も追跡した結果、24週目まで倦怠感の軽減効果が続いていたことが確認されました。 一時的な緩和ではなく、長期的なQOL(生活の質)向上に寄与できる可能性があります。

臨床へのヒント:この結果をどう活かすか

この研究結果は、がんサバイバーのケアにおいて、鍼灸師の先生方が果たせる役割が大きいことを示しています。

1. 手法の使い分けとおすすめの道具

研究では、電気鍼(パルス)だけでなく、耳鍼(BFAなど)でも同等の効果が期待できることが分かりました。

  • じっくり治療する場合(電気鍼): しっかり通電して深部へアプローチしたい場合に適しています。
  • 短時間で施術する場合(耳鍼/BFA): 着替えの手間を省きたい、座位でサッと施術したいといった患者様のニーズに対応できます。

▼ 電気鍼(パルス)の実践におすすめの機器 今回の研究で高い改善効果が示された「電気鍼」。安定した通電と使いやすさを兼ね備えたパルス治療器はこちらからお選びいただけます。

▼ BFA・耳鍼の実践におすすめの鍼
BFA(戦場鍼)の施術には、今回の研究でも言及されているASP型の鍼が一般的です。また、より手軽な短鍼の選択肢も増えています。

2. 患者様への説明と安心感の提供

「鍼で倦怠感が楽になるの?」と疑問に思う患者様もいらっしゃるかもしれません。 今回のエビデンス(科学的根拠)を伝えるとともに、分かりやすいツールを使って説明することで、患者様の安心感と治療への納得感が高まります。

▼ 説明用ツールのご紹介

3. 社会的復帰へのサポート

スコアの改善は単なる数字ではありません。家にこもりがちだった方が、再び家族や友人と過ごせるようになる…そんな「人生の質の回復」を鍼治療がサポートできるのです。

おわりに

がん治療後の長引く不調に悩む方々にとって、鍼灸治療は「希望の光」となり得ます。
「海外の研究論文で、倦怠感にも良い結果が出ていますよ」と一言添えるだけでも、患者様の心の支えになるはずです。

メイプル名古屋では、先生方が自信を持って患者様に向き合えるよう、信頼できる情報と商品でサポートしてまいります。
道具選びや導入についてのご相談もお気軽にお問い合わせください。

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