鍼灸師を志す方なら「和鍼」避けて通ることは無いでしょう。では和鍼とはどういった鍼を指すのでしょうか?馴染み深い鍼だからこそ知らずにいることもまだあるかもしれません。

この記事では和鍼の概要や他の鍼との違いなどを紹介していきます。和鍼とよく比較される中国鍼についても言及していますので、ぜひ現場で使い分ける際の参考にしてみてください。

和鍼とは

和鍼とは

和鍼(わしん)は、いわゆる中国針(ちゅうごくばり)、中国鍼(ちゅうごくしん)に対して区別される、「日本製の細い鍼」もしくは「その鍼を用いた治療」を意味する言葉です。日本と中国の鍼治療の特徴を端的に表した言葉であり、鍼灸師の間でもその2つの区別のために使われています。

「鍼治療」と聞くと、テレビ・雑誌などで紹介されている太い鍼がたくさん刺さっている、中国鍼をイメージされる方が多いのではないでしょうか。

太く長い鍼が身体や顔にたくさん刺さっている絵面は、人目を引くためかメディアではよく利用されます。紹介されているイメージこそ痛々しいですが、実際には「中国鍼だから」痛いわけではありません。

痛みを左右するのは鍼の種類による所も大きいですが、どちらかというと道具よりも施術者次第と言えるでしょう。

鍼の歴史

鍼の歴史

鍼の起源古代中国石器時代から発祥したと言われています。石鍼(石針)や砭石(へんせき)と呼ばれていたこの時代の鍼は、主に体内の膿を排出するために使われていました。

そして、動物の骨を利用した骨針、陶器の破片などでできた陶針、竹で作られた竹針などが作られるようになっていったのです。

現代で使われているような金属製の鍼戦国時代頃に作られ始めたと言われています。この金属鍼が経絡の考え方や内臓との関係、陰陽論などと紐づいて「鍼治療」徐々に確立していくことになります。

鍼灸などの中国医学の概念は遣隋使・遣唐使などによって日本へ持ち込まれました。記述を辿れば奈良時代にはすでに鍼師、按摩師などが役職として存在していたようです。この時代以降、鍼師は医師などと共に認識され、日本の医学の歴史を作っていくのです。

900年代には手掛けられた「医心方」という医学書によると、日本の鍼治療は当時の中国医学よりも簡易化されているという独自の発展が見られます。

また、江戸時代には「管鍼法」という鍼技術が、盲目であった杉山和一という人物によって体系化されました。

この管鍼法は現代日本の主流技法の一つになっていて、日本の盲学校で鍼治療を学ぶ文化は、杉山和一が作った鍼治学問所から発展させていったものと言われています。

和鍼と中国鍼との様々な違い

和鍼と中国鍼との様々な違い

現役の鍼灸師さんによれば刺し方の感覚の表現としては、中国の鍼「押し込み」日本の鍼「弾き込む」といった違いがあるそうです。

中国鍼は鍼そのものを手に持ち、押し込むように皮膚に刺していきます。

対して和鍼は、鍼よりも少し短い管の中に入った鍼の根本を、”弾く”ように叩いていくという特殊な刺し方が主流となっています。

和鍼に使われているこの管は「鍼管」と呼ばれるもので、前述の杉山和一が考案した管鍼法にあたります。この管鍼法によって鍼自体も中国鍼とは異なる変化を遂げました。

鍼自体が細くなり、それに合わせて鍼そのものも柔らかくなっていったのです。細く柔らかくなると刺された時の痛みも和らぎ、身体に与えられる刺激も必要最小限となります。そのため、日本の鍼灸師は少ない刺激でより大きな効果を引き出す為に日々技を磨いています。

そして、一番気になるのが「どちらが有効な治療法か」という点ですが、一概に優劣をつけることはできません。どちらの鍼でも適切に扱えれば、強いコリや痛みに対して充分に効果は得られるからです。

ですから、どちらがより効果的かという観点よりも、患者と施術者の双方の好みによって使い分けるのが良いでしょう。同じ肩こりであっても患者さんによって度合いは違い、強い刺激を求める方もそうでない方もいらっしゃいます。

また、施術をする鍼灸師側にも扱う鍼の得意・不得意や好みがあります。重要なのは患者さんの状態や考え方を理解した上で、それらに合わせて自身の得意とする鍼で臨むことだと言えるでしょう。

形状の違い

中国鍼は太い、和鍼は細いと言われますが、それぞれの鍼が総じてそのような形状ではありません。和鍼にも太い鍼はありますが、傾向として柔らかく細い金・銀の鍼が使われることが多かったのです。

中国鍼も同じように全てが太いわけではなく、太い鍼が多く使われる傾向にあったために「中国鍼は太い」という印象が根付いたのだと思われます。

刺し方の違い

形状の違いは刺し方の違いにも表れます。

中国鍼は最大の力を一瞬のスピードでコントロールすることが求められ、金・銀の和鍼は繊細な力のコントロールを長時間に渡って行うことが求められます。

ちなみに今日本で最も多く使用されているのはステンレス製の和鍼です。ステンレスの和鍼はよく刺さり、中国鍼や金・銀の和鍼ほど技量を必要としません。

しかし、やはり現場ではどの鍼も扱える必要がありますので、養成学校では金・銀・ステンレスの和鍼、中国鍼全てを目的に応じて練習し、全てに対応できる技術を身に付けられる環境が用意されるべきです。

鍼ごとの技術の違いと習得する目的

和鍼と中国鍼では明確に技術の違いがあります。ここではステンレス製の和鍼、銀製の和鍼、中国鍼のぞれぞれに必要とされる技術の違いを紹介します。

まず鍼を刺す際に目標とするのは「芯を捉えること」です。芯を捉えるというのは「鍼先に力が入りつつも鍼がたわんでいない状態」を指します。

刺入時には鍼先に向けて力を加えていきますが、ただ力を加えても鍼はたわんでしまいます。鍼がたわむのは力の入れ過ぎです。鍼がたわまないようにしつつ鍼先に力を込められている状態であれば鍼は刺さりやすくなります。

そしてこれこそが「(鍼の)芯を捉えている」状態なのです。ステンレス製の和鍼が芯を捉えるのに最も容易であり、この難易度を基準として他の鍼の難易度を説明します。

銀製の和鍼は、非常に柔らかく、少しでも力を入れすぎるとたわんで刺せません。そのため深く早く刺すことには適していないのです。

うまく刺すには時間をかけて芯を捉え続けることがポイントであり、同時にそれが銀製の和鍼の難しさでもあります。

一方、中国鍼は太いものが多いため鍼もあまりたわみません。そのため鍼がたわまない最大限の力を鍼先にかけ、素早く鍼の芯を捉えます。芯を捉え損なえば刺さり方が不充分となり患者さんが痛みを感じてしまうため、「中国鍼は痛い」というイメージにつながったのだと思われます。

技術の習得そのものも目的ではありますが、扱える技術に幅を持たせ、取れる選択肢を多くしておくことが重要です。余裕を持った施術ができるよう、技術習得に励んでいきましょう。

鍼の主な材質

鍼の主な材質

ここまでで鍼ごとの形状や技術の違いに触れてきましたが、それぞれの材質の特色についても解説します。

金鍼

金を含んだ鍼で柔軟性・弾力性に富み、刺入時の刺痛が少なく腐食しにくい。しかし高価であり、耐久性に劣る。

銀鍼

銀を含んだ鍼で金鍼と同じく柔軟性・弾力性に富み、刺入時の刺痛が少ない。金鍼に比べると安価だが、酸化・腐食しやすく耐久性に劣る。

ステンレス鍼

鉄にクロムやニッケルを混ぜてさびにくくした鍼。刺入しやすく折れにくいが刺痛が発生しやすい。安価ではあるが他と比べ、柔軟性・弾力性に劣る。

日本では安全性と価格の面からステンレスのディスポーザブル(使い捨て)鍼が多く使われている。

和鍼を刺される時の部位による感覚の差

和鍼を刺される時の部位による感覚の差

鍼が刺される深さによっても感じ方に差が表れます。鍼を刺された時の感覚には、大きく分けて2つの段階があります。

1つは、鍼が皮膚を貫く時に感じる表層の触覚で、もう1つは目的の深さに鍼が到達してから起こる「響き」と呼ばれる感覚です。患者さんが感じるそれぞれの違いを知っておきましょう。

皮膚の表層

蚊に刺された際、痛みを感じる時と何も感じない時があるように、鍼の刺入時にもチクリとする時とそうならない時があります。部位により、また身体の状態により触覚の感受性にも差異が現れます。

ただし、緊張感が強く張りつめている所は過敏になる傾向があります。

皮下組織(響き)

ずんと重くなったり、つーんと刺激が来たり、ぴりぴり・ざわざわと電流が流れるように感じたりします。

鍼先が当たっている部位が皮膚表面ではなく、皮膚と筋肉を繋ぐ結合組織や筋組織そのものであるため、触覚よりも深部の感覚が刺激されるのです。

まとめ

ここまでで和鍼の概要や他の鍼との違いなどを紹介しましたが、新たな発見はありましたか?

鍼の歴史を知ればどういった経緯で今使っている鍼が生まれてきたのかがわかり、今使っている鍼の材質や形状の違いを知れば鍼ごとの効果の違いもわかります。

そして、その効果の違いを自身で磨いた技術で意図を持って扱えることができれば、患者さんが求める状態へ導くことができるでしょう。